古賀文敏ウイメンズクリニックKOGA FUMITOSHI WOMEN’S CLINIC

不育症

不育症とは

妊娠しても流産、死産や新生児死亡などを繰り返して結果的に子供を持てない場合を不育症と呼びます。不育症と習慣流産はほぼ同義語ですが、習慣流産には妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含まれません。日本産科婦人科学会は2回以上の連続した流産を習慣流産とする取り決めをしました。

受精卵の染色体異常について

一般に流産の原因の7〜8割は胎児の染色体異常といわれます。女性の年齢が高くなると受精卵の染色体異常の頻度は高くなります。染色体異常と聞くと、何か特殊な病気のように感じられるかもしれませんが、ヒトの受精卵の染色体異常の頻度はかなり高く、若い女性でも胚盤胞に至った受精卵の5割は染色体異常であることがわかっています。20歳代のカップルでもひと月あたりの妊娠率が25%程度しかないのは、受精卵の染色体異常が関与しているためです。

染色体の番号は大きいものから順番につけられているので、一般的に小さい番号の染色体は重要な遺伝情報を含んでいることが多く、1番染色体の異常などは胎嚢を形成する前に陶太を受けていると言われます。逆に遺伝情報が最も少ない21番染色体の異常(21トリソミー、ダウン症)は、生まれてこれることもあるわけです。ただし21トリソミーでも79%は流産に至るといわれています。

不育症のリスク因子

厚生労働研究班による不育症のリスク因子別頻度は以下の通りです。

1. 子宮形態異常 7.8%
2. 甲状腺異常 6.8%
3. 両親のどちらかの染色体異常 4.6%
4. 抗リン脂質抗体症候群 10.2%
5. 第XII因子欠乏症 7.2%
6. プロテインS欠乏症 7.4%
7. プロテインC欠乏症 0.2%
8. 偶発的流産・リスク因子不明 65.3%

なお、同班によると不育症例に陽性率の高い抗リン脂質抗体の一種である抗PE抗体陽性者が、34.3%に認められますが、この抗体が本当に流産・死産の原因になっているかは、現在疑問視されています。NK活性という免疫の力が亢進している症例も認められます。この検査の意義も未だ研究段階にあります。

当院の治療方針

厚労省研究班のデータでも明らかなように、偶発的流産・リスク因子不明は実に65.3%もあります。不育症の半分以上は原因不明ということです。 

当院では、治療をして流産に至った方には流産の原因精査のために絨毛染色体検査をお勧めしています。自費検査になりますが、なぜ流産に至ったのか、次に繰り返さないためにどうしたらいいのかを判断する際に非常に参考になります。一般に染色体異常を繰り返すのは偶発的であり、女性の年齢が上がるにつれ染色体異常の割合は高くなるとされますが、若い女性でも染色体異常を起こしやすい方がいらっしゃいます。当院の経験では、排卵が遅い遅延排卵の方、多嚢胞性卵巣症候群の方も染色体異常の頻度が高いようです。そのために適切な排卵誘発が重要になります。

一般的には流産した際に絨毛染色体検査を行わないことが多いため、血液凝固系の疾患やNK細胞の異常などの特殊な要因が見つかることがあり、他院でヘパリン療法やガンマグロブリン療法、夫リンパ球移植などの特殊治療を受けたにも関わらず流産された方が、当院の排卵誘発のみで妊娠継続できた例は沢山あります。ただし多嚢胞性卵巣症候群の方の排卵誘発では単一卵胞発育が難しい時があり、なかなか妊娠に至らない時は、生殖補助医療を勧めることもあります。

不育症の治療には、アスピリン療法やヘパリン療法、ステイロイド療法、漢方療法などがあります。また原因不明な方に対して夫リンパ球移植などを行われることもあるようです。しかし本当に妊娠期間中継続してヘパリン療法を行わなければならない方は、一般に想定されているより、かなり限られているという印象を持ちます。以前ステロイド療法による不育症の有益性と妊娠中の合併症について学会で発表したことがあります。不育症の治療は有効であったけれど、前期破水や妊娠高血圧症候群の頻度が高くなっていました。不育症の治療は、なるべく流産を繰り返したくないあまり過度に負担のかかる治療を選びがちです。私たちは適応を守って治療にあたることが大切だと考えています。

また子宮奇形に関してもなるべく手術を回避して妊娠ができたらと考えています。双角子宮や弓状子宮に関しては、最近ほとんど手術をしておりません。少し時間がかかることがありますが、多くの方は出産まで至っています。子宮内膜を圧迫しない大きな筋腫については、手術することで妊娠継続可能となることがあり、手術をお薦めすることがあります。

反復着床不成功の原因は、胚か?それとも着床か?

今まで良好胚を何度も移植したにも関わらず着床が成立しない場合、どちらが要因として大きいのでしょうか。閉経後の方でもドナー胚が着床することができるように、年齢が高くなると着床が原因で妊娠継続できないわけではありません。私たちの経験では、やはり胚の問題が大きいと思います。当院で再度適切な調節卵巣刺激を行った生殖補助医療で、良好胚を移植することできた場合は、妊娠・出産まで至っていることが多いからです。

以前凍結胚移植時にHCG製剤を投与して妊娠継続率が上昇したことを発表したことがあります。また採卵して6日目にようやく胚盤胞に到達した胚もimplantation windowを調整することで着床率が上昇することがわかってきていますし、海外の着床前スクリーニング検査のデータでも少なからず着床の関与はあると考えています。着床に関しては軽視してはならない、そしてこれからもっと明らかになる課題と思われます。