古賀文敏ウイメンズクリニックKOGA FUMITOSHI WOMEN’S CLINIC

医師のご紹介

NHKスペシャルの「腸内フローラ」を見て、衝撃を受けました。腸内フローラが人に「生きがい」や「安らぎ」を与えるセロトニンや「やる気」を生むドーパミンを合成するもとのビタミンを生み出し、その働きが弱まると「うつ」に陥りやすいなんて考えてもみませんでした。腸内フローラは、ダイエットやお肌の調子にも関係があるということなので、ひょっとして妊娠にも関係することがあるのでしょうか?


質問者

「腸内フローラ」という言葉をテレビやラジオ、雑誌で見聞きする機会が増えましたが、もう一度簡単に教えていただけますか?

先生

腸内細菌は一般に善玉菌と悪玉菌、そしてどっちつかずの日和見菌に分けられます。意外に思われるかもしれませんが、善玉菌と呼ばれる菌だけが身体に必要なのではなく、悪玉菌も日和見菌もとても大事な働きを担っていることがわかっています。
最近、遺伝子解析によって腸内細菌の研究が急激に進みました。その結果、人の腸内には約2kg、1000兆個の細菌がいることがわかってきました。人の身体は60兆の細胞からなるので、その数は10倍以上となります。そして人の命は腸内細菌との共同作業で守られているといわれていて、腸内フローラが悪化するとアレルギー疾患やがん、潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患、糖尿病などが起こりやすいとされています。幼児の自閉症は、「抗生物質を長期間投与することで起こっているのではないか」と感じた幼児の母親の観察から始まったとされています。すごい推察力ですよね。

質問者

私自身、風邪で病院にかかったときに抗生物質を処方されると安心していた部分があったのですが、間違った認識だったのですね。大人だけでなく、小さな子どもに抗生物質を使うのは、特に慎重になるべきなんですね。

先生

私もそう思います。出産を機に産褥熱で死亡する妊婦さんが過去には多くいらっしゃいました。そして、医者や産婆さんが手洗いと抗生剤使用により、その感染による死亡を劇的に減らしてきたという歴史があります。ですから産婦人科は特に抗生物質を使いがちです。しかし、抗生物質の頻用は腸内フローラを乱れさせます。でもこれは、私たちの生活習慣も関係しています。
以前、にきびの治療薬のCMで、皮膚表面のアクネ菌をクレアラシルがきれいに取り除いているシーンがありました。実はにきびは、糖質過多と関係しているのであって、にきび顔でない方にもアクネ菌はいるものなのです。そのため、洗浄力が強すぎる薬剤を使うと皮膚常在菌を洗い流し、細菌感染しやすくなるというパラドックスに陥るのです。手洗いに石鹸を使いすぎる方ほど、肌荒れがひどいのも同じ理由です。

質問者

抗生物質の使用だけでなく、普段の生活で菌を洗い流しすぎることがよくないのですか?

先生

当院の待合ライブラリーに置いている本の著者である、東京医科歯科の藤田紘一郎先生は、「キレイはキタナイ、キタナイはキレイ」というフレーズをよく使われます。身体に優良な菌を食生活に取り入れる活動「菌活」や腸内環境を整える生活「腸活」を進んで取り入れている方が、テーブルや手をアルコール除菌するのは愚かなことだと。「ミミズを利用した土壌菌をカプセルに入れて服用すると精力増強した」と仲のよい教授に薦めて好評だったと言われていたことは、あながち嘘ではないかもしれません。さすが、ゾウリムシをお腹で飼っていると公表している先生です。
日本やフィンランドなど清潔思想が行き届いた国が花粉症、アレルギー大国になっているのもわかるような気がしますね。除菌シートやジェルが必需品という方も多いようですが、過度に菌を排除する「除菌至上主義」ともいえる現代日本の生活習慣は改めたほうが良いのかもしれません。

質問者

ヒトには必要な細菌も沢山あるということですね。う〜ん、そうすると「キレイ=タダシイ」という私たちの考えを根本から変えないといけないことになりそうです。

先生

そうですね。藤田先生は花粉症を防ぐために、①適度に不衛生な環境を維持する②狭い家で、子だくさんの状態で育てる③小児期にはなるべく抗生物質を使わない④早期に託児所などに預け、細菌感染の機会を増やす⑤手や顔を洗う回数を少なくする・・と述べられています。細菌とおおらかに付き合うのが大事だといえそうです。

質問者

私はいま妊活中なのですが、糖質制限をはじめて腸の調子が悪くなりました。糖質制限と腸内フローラは関係するのでしょうか?

先生

妊活中ということは、ストレスを感じやすい生活を送られているかもしれませんね。ストレスは免疫力を低下させます。体調が悪いときに糖質制限の食事療法を取り入れられたことで、お腹の調子が悪くなった可能性はあります。腸内フローラが良い状態で保たれているかは、お通じが毎日規則正しくあるかどうかだと言われています。それもバナナ1.5本以上ぐらいの大きさが望ましいとのことです。
糖質を少し増やし、朝に穀類や納豆、ファイバーを取ると改善してくるでしょう。十分な睡眠をとることも、とても大事です。妊娠に良いとされている食事を含む生活習慣と腸内フローラに良いとされる生活習慣は似ているような気がします。ひょっとすると「腸年齢を若く保つ」ことは「卵巣年齢」よりも大事なことかもしれません。