古賀文敏ウイメンズクリニックKOGA FUMITOSHI WOMEN’S CLINIC

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院長コラム

院長 古賀文敏 が不定期に書いているコラムです

2008.01.04

鈍感力!

「先生、なんだか楽しくって仕方ないんです!」えっ、私はちょっと耳を疑いました。スクリーニング検査で卵管閉鎖が判明し、急遽体外受精を受けることになったもうすぐ40歳の女性。(ごめんね、年齢を出して。)その体外受精の準備で排卵誘発剤を毎日北九州から通院されているのに、にこにこしながらのこの発言。私は問い返しました。

「どうしてですか?」「だって、もしかしてもうすぐ妊娠するのかと思うと、うれしくなっちゃって。」あまりのハイテンションにプレッシャーを感じる私を察知してか、「でもできなくっても失うものはないですから、先生大丈夫よ。また明日来ますね。」完璧なフォローまでいただいて・・・

でも私にはこの言葉がすごく新鮮でした。終わりの見えないトンネルのよう、と形容される不妊治療をこんなにもポジティブに捉えられるなんて。惨めな思いをせず治療を受けてほしいと思って作り上げてきたこのクリニックも少しは形になっているのかも、そんな気にもさせていただきました。すぐできるはずと思った不妊治療でも、思いがけない原因を指摘され、その解決のための治療の成績の低さを目の当たりにすると、だんだん自信がなくなっていくものです。

そして、いざその治療に入る段階になって尻込みしてしまう方を沢山みてきました。「この方法で妊娠しなかったらどうしよう。」そう思うと前に進めないのかもしれません。でもね、リスクのない選択なんてないんですよ。きっと。

私は、大学で待遇も収入も保証されている中、あえてこの福岡の一番競争が厳しい場所で開業しました。有名な病院からもお誘いの話もあり、なぜそんなリスクをおかすのか自分でも不思議になるときもありました。でも時々頭をよぎるのです。

周産期センターのなか、妊婦さんでごった返す病室に小さく休まれている女性と小さな丸いすに背中を丸めて座っている男性。カーテン越しには、聞きたくなくても聞こえてくる、もうすぐお産を迎える方達の高揚した話し声。そして帰り際のあいさつの後、ピンク色に縁取られた産科の部屋を通り過ぎるお二人の小さくなった後ろ姿。いたたまれなかっただろうご主人が奥様の腰に手を添えて・・・みんないっぱい頑張ってきました。体験談を読み返す度に私の頑張りの原点はそこにあるような気がします。

先日の新聞の書評に「鈍感力」という本が紹介されていました。会社で上司から叱られたり、なにかいやなことがあっても、すぐ忘れて前向きに進んでいける。自分が信じたことをやり遂げようと思うとき、ちょっとした失敗に右往左往せず、どんと構えること、そんなことが書いてあるようです。思えば地元の久留米を離れたこの地の開業もほとんどの方が大丈夫?と心配されました。マーケッティングも現地調査も何度も行い、そして先輩方やその道のプロの方々とも本当にこれでもか、というぐらいディスカッションしましたが、最後に決断するときは思い切り、そしてその後は鈍感力なんですよ、多分・・・。

リスクのない決断はないということ、そしてリスクを最小限にすればするほど、私の人生からみたら最大のリスクであること、これが結論でした。田中角栄が好きな言葉に「岩もあり木の根もあれどさらさらと、たださらさらと水の流るる」とあります。何事にも固執することなく自然体で、それでいながら自分なりのしっかりした信念を持って、困難や障害があっても意とすることなく、淡々と清く生きていく、そんな意味だそうです。いい言葉だなあと思いませんか?

P.S前述の小倉の○○さん、元気に妊娠生活楽しんでいますか?鈍感力の体験談待ってますね。(笑)