古賀文敏ウイメンズクリニックKOGA FUMITOSHI WOMEN’S CLINIC

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院長コラム

院長 古賀文敏 が不定期に書いているコラムです

2026.08.21

巻頭言

 人は、人生の岐路に立ったとき、誰かに「答え」を求めたくなるものです。最近、細木数子さんを題材にしたNetflixドラマが話題となり、かつて一世を風靡した「地獄に堕ちるわよ」という強い言葉を思い出された方も多いのではないでしょうか。あの言葉には、占いという営みが、ときに人の不安や迷いに深く入り込み、人生の選択に大きな影響を与えうることが象徴されているように思います。

 実は、私自身にも忘れられない経験があります。大学進学を前に、文系に進むか、医学部に進むかで迷い、入学金支払期限前日に新宿の占い師に相談しました。その時に返ってきた言葉は、「この選択を間違ったら、地獄に落ちる」というものでした。若かった私にとって、その言葉は単なる助言ではなく、未来を縛る宣告のようにも感じられました。幸い、その後の私は自分なりに考え、医学の道を選び、今に至っています。しかし今振り返ると、人生の重要な選択に対して、他者の強い言葉がどれほど大きな影響を持ちうるかを、身をもって知った出来事でした。

 占いと心理カウンセリングは、本来まったく異なる営みです。しかし、どちらも「心の非常時」に人が訪れる場所であるという点では、どこか似ています。不安、迷い、孤独、喪失感、あるいは将来への恐れ。人はそうした状態に置かれたとき、自分の中だけでは抱えきれないものを、誰かに預けようとします。その時、言葉を発する側には大きな責任があります。励ましにもなれば、呪いにもなる。人を自由にすることもあれば、選択肢を狭めてしまうこともあります。

 では、占いとカウンセリングを分けるものは何でしょうか。東畑開人氏の『カウンセリングとは何か――変化するということ』(講談社現代新書)で、カウンセリングを社会へ開かれた営みとして論じています。私が特に重要だと感じるのは、カウンセリングとは、苦しんでいる人を心理学的に理解し、その理解に即して必要な介入を行う専門的営みである、という視点です。ここには、単に話を聞くことを超えた専門性があります。相手を決めつけず、しかし放置もしない。個人の内面だけでなく、その人を取り巻く家族、社会、医療、制度にも目を向ける。必要であれば社会的支援につなぐ。

 生殖医療の現場もまた、「心の非常時」に満ちています。不妊、流産、着床前検査、提供配偶子、がん・生殖医療、出生前検査。患者さんはしばしば、医学的な選択であると同時に、人生そのものに関わる選択の前に立たされます。その時、私たち専門職の言葉は、時に占い師の言葉以上に重く響くかもしれません。だからこそ、私たちは「正しい答え」を一方的に与えるのではなく、心理学的に理解し、必要な支援をともに考える姿勢を持たなければなりません。生殖心理学は、医学と心理、個人と社会、希望と不安のあいだに立つ学問です。人が人生の岐路で誰かの言葉を求めるとき、その言葉が呪いではなく、自由を取り戻すための支えとなるように。本学会がその実践と研究を深める場であり続けることを願っています。

一般社団法人 日本生殖心理学会
理事長 古賀 文敏